ケアマネから筋力低下の方の住宅改修の依頼があった。
ケアマネは浴室に手すりがつくのか大規模改修が必要なのか全く分からない広い
作りの家だと説明があった。電話先の話だけでは全く分からないのでさっそく
対象者宅を訪問した。既存住宅地、木造2階建て、築70年、一般住宅。
対象者はガンで手術し、入院が長くなり、筋力低下になった。骨粗しょう症もあるため
転倒の予防をする目的で手すりが必要になった。家族が介助して移動することもある。
入浴は手すりがないため介助を必要としている。トイレの立ち上がりは何とか出来ている。
対象者に室内を動いてもらい状況を確認した。各所に手すりが必要なことを確認した。
対象者宅は玄関を入るなり、一般的な住宅とは全くかけ離れた玄関だった。
まるで「二笑亭」を思わせるような作りだった。建築の分野で言うと数寄屋建築だ。
玄関扉は両側に引き引戸、扉上部の欄間、土間部分の石、踏み石、下駄箱の作り、
下駄箱の天板、天板上の床の間のような表現、このように玄関だけでも数寄そのものだった。
太鼓橋のような廊下、台所、便所前の洗面所の空間などなど随所に工夫がある。
今回の問題になっている浴室を検証した。浴室は5畳位の広さで、脇に長さ110cmの
普通に浴槽が設置してあった。この浴槽はリフォームしたとのこと。浴槽の反対側の角には
水が流れる石の岩が作り込まれていた。予想するに水が流れている石の岩と同じように
石で造作した浴槽であったのだろう。何らかの理由でリフォームしたのだろう!
対象者に必要な手すりは広い浴室のため外手すりを利用して計画することになった。
また脱衣室も四畳半くらいあり、移動のための手すりが必要となった。また脱衣時の
手すりも合わせて計画した。
また、トイレにも手すりが必要になった。一般的住宅では便座に座った時に正面に壁がある。
しかしこの家には壁はなく、壁部分が出窓状で天板の高さは便座より低い。正面には
手すりが付けられない。それでも手すりは設置可能だった。
この住宅は建築関係者からみると実にたのもしい建築だ。
いまの建築では数寄屋建築はあるものの、個人の趣が建築表現として「二笑亭」のように
存在することは少なくなった。現在では出会えることが少なくなった。
所有者の話だとこの住宅は一人の大工が家の脇に小屋を作り、そこで住み込むようにして
一棟の住宅を完成させていく。期間は一年以上を必要とした。建て主から食事や酒の
提供を受けていた。話によるとこの地域に10棟くらい建築したようだ。今ではどれくらい
残っているか全く分っていない。古き良き時代の話だったようだ。